中国から帰ってきた人のブログ。
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それにしても、会いたいと思った時に会ってくれる友達がいるのは結構なことだと思う。
月曜の深夜に電話をかけて、「これからお茶を飲もう」と誘うと意気揚々と「うん、いこう」と答えてくれる。
その返事を聞いたとたんペダルをこぐ足元も軽くなる。
自転車で千本通りを下り、鴨川を目指して夜の京都を走る。
河原町三条のブックオフが閉店のアナウンスを流すまでしばし、本を品定め。
仕事帰りに立ち寄れる古本屋が無い為に、私のお財布は相当の打撃を受けている。
ここのブックオフは小説系の品ぞろえが良い。
気になる作者のものをざっと探して買いだめしておくことにする。
『血の味』(沢木耕太郎)沢木さんの書く小説を読むのは初めてだ、
『王の闇』(沢木耕太郎)105円コーナーに未読の作品があった。ラッキー、
『うたかた/サンクチュアリ』(吉本ばなな)芸術選奨新人賞受賞作品(とりあえず何かしら受賞作品から手を付けていく)、恋愛ものを読んで癒されたい、
『原色の街・驟雨』(吉行淳之介)芥川賞受賞作品、気になっていた作家さんなのでとりあえず受賞作から、
『時が滲む朝』(楊逸)表紙の人民広場と芥川賞受賞作!という帯に魅かれて、中国人で芥川賞受賞ってすごいなあ、
まだまだチェックしたい作家さんがいたのだが、一度に全部の欲望を満たしてしまうと後での楽しみがなくなる…と言い聞かせてとりあえずはここまで。
中国の有名な武侠小説作家、金庸の翻訳作品が揃っていたのにも惹かれたなあ。
鴨川沿いには平日の夜だというのに多くの人が座っている。
バーや居酒屋のネオンを潜り抜けて「タナカコーヒー」という店に行きついた。
http://tabelog.com/kyoto/A2602/A260201/26000939/
パンケーキの味はそこそこ。
深夜に四条付近でお茶をするなら上々だろう。
面白い出来事や友人の話、昨日発表した研究の話、韓国人のアイラインはなんであんなに太いのに自然に見えるのか――
コーヒーを片手におしゃべりに夢中になれる、明日は休みだし。
12時を回ったくらいに店を出て、帰途に就いた。
彼女と別れて家を目指して走りながら、無性に星が見たかった事を思い出してハンドルを切る。
それにしても、なんでこんなに暗がりがないのだろう。
人影のない道を煌々と照らすライト、信号機。そこには誰もいないのに。
工場、マンション、役場。巨大な人工建造物はそこここで良く分からない威圧感を放っている。
京都へ出てきたばかりの時、夜に懐中電灯がなくても道を歩けることに感激したものだった。
5年経って、街の明るい生活に慣れてしまったようで、ふとした時に違和感を感じる。そしてそのことに安心する。
建物が途切れて、蛙の鳴き声が間断なく響く空間が現れる。
自転車を止め、じっとその声に聞き入る。
深夜1時の住宅街は人も車も通らない。
空には北斗七星とオリオンが見える。
実家で見える星よりはずっと弱い光だ。蛙の鳴き声だけが力強い。
ふと、息を合わせたように合唱が止まった。
向こうの田圃の合唱が遠さの分だけ響くように聞こえてくる。
静まり返った暗い稲の間で、生き物たちが息をひそめて蠢いているのだ。
得体のしれない不気味さが少々、久しぶりに出会ったような親密感が少々。
実家に帰って星が見たいと思った。
月の光を明るく感じるような暗闇も。
夜空を見上げることは読書に似ている。
明るいライトは夜道を照らしてくれるけれど、星の光を隠してしまう。
たまには日常というライトを消して、空を見上げてみたい。
空の広さ、世界の大きさ、巨大なものの中にいることを感じることは、日常の息苦しさからの解放になる。
帰りたいと思って帰れる場所があるだけ幸せなのかもしれない。
弱々しい夜空に少しだけ気を持ち直して、今度こそ本当に帰途に就いた。